アイヌ語について、さらに詳しく調べたい時は、図書館などで、三省堂の言語学大辞典等を参考にしてください。
以前に示した掲示板からの抜粋も含みます。
リンクのページにあるアイヌ語学習者のためのアイヌ語基本文献・音声資料リストも参考にしてください。
http://jinbunweb.sgu.ac.jp/~ainu/biblio/japanese.html
色々な資料を見て、アイヌ語の特徴をまとめてみました。参考にしてください。
アイヌは、北海道、樺太、千島列島の先住民族であり、古くは日本の東北地方にも居住していたことが知られています。アイヌ語は様々な言語に結びつけられて来ましたが、現在に至るまで系統は不明となっています。
アイヌ語を日本語の方言と思っている人もいるようですが、比較的変化しにくいと言われる基本的な単語が日本語とはかけ離れていて、アイヌ語は、日本語とはあまりにも違うもう一つの日本の言葉となっています。
語彙の面では、日本語と比べた場合、相互に類似の語が数多く見られます。もっとも、長年にわたり隣接しあった言語であるので、お互いに影響を受ける部分があるのはあたりまえなのかもしれません。なお、アイヌ語も日本語も、音韻体系や形態素の音韻構造の簡単な言語であるため、その間に偶然の一致の起きる確率が高いものになっています。このため、類似の語が、共通の祖語から受け継がれているものか否かを判別するには注意を要します。
構造上の特徴全体から言えば、他の諸言語に比べ、日本語によく似ていると言えます。しかし、相違点も多々あり、数詞の体系(20進数等)、動詞接頭辞の多用、動詞に主語と目的語に呼応した人称接頭辞・接尾辞がつく点等は、日本語、朝鮮語、アルタイ諸言語とは異なり、むしろ、エスキモー語や北米インディアン諸言語、ヨーロッパのバスク語等々と形態的構造の上での類似が認められます。
いずれにしろ、日本語の間には深い歴史的関係があったにせよ、印欧諸言語間にみられるような意味での同系関係とは考えにくいものとなってます。
北海道方言は、まず、北東部と南西部の間で、語彙、音韻、語形成法などに多少の差があります。
北東部方言は、北部(宗谷)、中部(天塩、石狩)、東部(十勝、北見、釧路、日高東部)に分けられ、南西部方言は、南部(日高西部、胆振東部)、西部(後志)に分けられるといわれています。
しかし、年々、インフォマートが少なくなり、新しい資料を得ることが難しくなっており、言語地理学的調査も難しくなってきているといわれています。
なお、アイヌ語については、北海道大学の佐藤先生が、アイヌ語について、説明なさっている資料があるので参考にしてください。
http://wwwold.dkuug.dk/JTC1/SC2/WG2/docs/n2092.pdf
p.17-p.22
アイヌ語母音は、a, i, u, e, oの5個で、いずれも日本語の母音に似てます。ただし、u は、日本語のウよりも奥で調音され、オのように聞こえることもあります。子音は、p, t, k, c, s, r, m, n, w, y, h, ' の12個で、このうち、いくつかは音節末にも立ちます。日本語と違って、閉音節は開音節と同じくらい一般的なものとなってます。
先に示した比較的変化しにくいと言われる基本的な単語についてですが、ふたつの言語が同じ系統かどうかを探る指標によく用いられる身体名称を例にして、説明します。(財)アイヌ文化振興・研究推進機構の「アイヌ民族に関する指導資料」からの抜粋です。
なお、アイヌ語をカナで表す場合、ユニコード3.2でないと音節末の子音を示すアイヌ語用の小書きのカナを文字コードとして表示できないので、アイヌ語はローマ字で表記します。
頭-pake, sapa 髪の毛-otop 顔-nan 眉-rar 目-sik 耳-kisar 鼻-etu 口-car, par 歯-imak, nimak, mimak 首-rekut 腕-amunin ひじ-sittok 手-tek 指-askepet 爪-am 胸-penram 腹-hon へそ-hanku, hankapuy 背-setur 尻-osor 脚-cikir, kema 膝-kokkapake, kokkasapa 足(首から下)-ure かかと-kesup
かろうじて形が似ているのは、手-tek くらいなものですが、その手も、日本語では手綱(たづな)、手折る(たおる)のようにタの方が古い形だとも言われます。また、アイヌ語のtekは、teke, tekehe のように変化し、むしろ語末に k があるのが重要な要素となっています。
アイヌ語と日本語が歴史的にひとつの言語から発展したという説は証明もされていないし、一般に認められていない状況となっています。
動詞や名詞に付く人称の接頭辞・接尾辞は、日本語にはないものあり馴染みずらいものですが、ラテン語や西欧語の格変化に比べれば、そんなに複雑ではありません。また、アイヌ語の人称の接頭辞・接尾辞は、三人称の時はつきません。
この人称の接頭辞・接尾辞は、人称接辞と言いますが、これは代名詞ではありません。
これだけで独立では使えず、動詞や名詞に付いて使われ、それで意味を持つものです。
たとえば、kam k(u)=e.(私は肉を食べる)
kam 肉 ku 私 e 食べる という感じになりますが、
ku 私 だけが単独では使いません。動詞のeにくっついて初めて意味を持ちます。
このkuは、省略できません。三人称以外は必ず、人称接辞をつけます。
代名詞は別にあって、これは普通は省略します。
たとえば、私であれば、k(u)aniであり、
k(u)ani kam k(u)=e. となります。
(k(u)としているのは、沙流・千歳方言では、(u)は省略するという意味です)
なお、アイヌ語の動詞には、時制がありません。
現在、過去、未来で動詞の形は変わりません。
主語だけの自動詞(一項動詞)、主語に目的語をとる他動詞(二項動詞)の区別がはっきりしてます。
目的語を二つとる複他動詞(三項動詞)というものもあります。自他両方の活用を許す動詞は一般にroski「立つ、立てる」一例しか知られていません。
なお、近年、相次いでアイヌ語の辞書が出版されています。
詳しくは、
http://jinbunweb.sgu.ac.jp/~ainu/biblio/japanese.html
を参考にしてください。
萱野茂(1996)『萱野茂のアイヌ語辞典』三省堂
田村すず子(1996)『アイヌ語沙流方言辞典』草風館(1998年再版)
中川裕(1995)『アイヌ語千歳方言辞典』草風館
少々、値が張りますので、図書館などで利用すればよいと思います。